フランクル&ドラッカー レジリエンスについて
ドラッカー学会大会2014年in仙台TKPガーデンシティ仙台勾当台
2014/11/15
日本ロゴセラピー&実存分析研究所・仙台
安井 猛 PhD LogotherapeutDGLE®
講演の要旨
- ヴィクトール・E・フランクル(1905〜1997)、意味焦点化心理療法
- ナチスドイツの強制収容所の体験記『夜と霧』
- 東日本大震災以後もPTSD(心的外傷後ストレス障害)の教科書
- レジリエンス(生き延びのための情緒能力)を問題にした
- それはドラッカーの「自己マネジメント」(1999)に繋がる?
フランクルの情緒の経験 その1
- 『夜と霧』第1部「収容」第1場面 <アウシュヴィッツ到着>
不確かさ、不吉な予感、おののき、恐怖、陽気、楽天主義、恩赦妄想 - 第2場面 <最初の選別>
恩赦妄想、助かりたい、取引の望み - 第3場面 <消毒>
貴重品を維持する期待、カポーの同情、面白がり、嘲り、侮蔑、冷酷、望みの断念、人生をなかったことにする、脱衣、焦り、シャワーが出る喜び、幸福感
フランクルの情緒の経験 その2
- 第4場面 <裸の実存>
死の脅かし、残虐、おののき、悲鳴。助かる幻想は潰えた。 - 第5場面 <最初の反応>
三つの情緒。
(1)やけくそのユーモア:眼の前の現実を笑い飛ばす。自分を保持。
(2)好奇心:起こっていることは本当かを問う。受け身と傍観の気分。
(3)驚き:人間には何でも可能、どこにでも適合できる。
- 第6場面 <鉄条網へ身を投げる?>
異常な状況→異常な反応=正常。情緒には理由がある。情緒に従え!きっと、生きて出られる。
収容所を支配した気分
情緒の消滅、無感動
環境への適合能力の表現。
情緒能力は完全なまま。
いらだち
恒常的に存在。身体的と社会的要因。
収容所も階級社会、暴力の原因。
解放後の情緒の経験 その1
- 被収容者たちは解放後、外へ出る。花が咲いている。彼らはそれを見る。それは彼らの「情緒」に達しない。実感がない。強度の離人症。
- 自由の中で、何時間も食べた。何時間も喋った。「情緒」は突然、「それまで遮られていた奇妙な柵を突き破り出た」。
- 彼らは世界を体験した。再び世界へ踏み込んでいった。
解放後の情緒の経験 その2
- 情緒はフランクルの帰郷にも同伴。
「もはやこの世には神よりほかに恐れるべきものは何もない」。
「神」=「方程式における解かれるべき、おおいなる未知数Xのようなもの」。それを恐れるだけでよい。フランクル、精神科医の仕事を再開。 - 情緒が価値の支配を逸脱 → 「心の変形」「不満」「失意」
- フランクルの志 → 「失意」の人々を救うこと
レジリエンスとは何か?
フランクルは生き延びパーソナリティ
レジリエンスとは
逆境による緊張→忍耐→持続→工夫→成長→逆境の克服
× 均衡の回復(homeostasis)
〇 成長、変革(transformation)
― 情緒は、悟性が明敏である以上に敏感である ―
フランクル
一片のロゴセラピー理論 その1 生きる意味
- 人間の心 → 精神的次元へと接続。
この次元の特徴 → 「生きる意味」を問うこと。 - 諦め、生きることの放棄、苦難から意味を引き出す。
- 苦しみ、死ぬという意味にも裏けられた総体的な生きる意味。
- 意味を求めて死ねる → 偉大な業績 → 希望の維持。
一片のロゴセラピー理論 その2 価値観
- 創造価値 - 創造あるいは生産する価値。
この価値を実現する人 → 「制作する人(homo faber)」。 - 体験価値 - 自然の美しさ、音楽や芸術作品、男女の愛、職場の連帯を享受する。
この価値を実現する人 → 「愛する人(homo amans)」。 - 態度価値 - 逆境の只中で態度を変え、逆境を乗り切る。
この価値を実現する人 → 「苦悩する人(homo patiens)」。 - その都度、一つの価値を実現。価値実現=人生の意味実現
一片のロゴセラピー理論 その3 四つの原則
- 自己距離化 - 自己から距離を取り、あたかも他人を眺めるかのように自己を眺める。
- 自己超越 - 自己を超える結果として自己実現。
- 自由 - 自己を選択する定め。この定めは消せない。
- 責任 - 選択の結果に責任を負う。
ここまでは、フランクル
ドラッカーの挑戦とフランクル その1
ここから、ドラッカー
- ザ・フェロー・オブ・ザ・インターナショナル・アカデミー・オブ・マネジメント(東京)における講演(1969)『すでに起こった未来』
- 「コミュニケーションが力を発揮すれば相手に転換が訪れる。人格・価値観・信念・願望の変化がもたらされる。
- しかし、
そのようなことは、めったに起こらない。人間は総力を挙げて抵抗」。 - 組織におけるコミュニケーションは難しい。さて、どうする?
ドラッカーの挑戦とフランクル その2
- ポール・ウィーアンド 「フランクルの出番。彼に聞こう!」
生き延びパーソナリティの性格特徴二点。
(1)逆境において価値観を持つ。「継続」と「安定」の源。
(2)広範囲の、時には瞬時に正反対の情緒を使える。コミュニケーションのバリアを破る能力。
MBA用テキスト、Cases in Leadership, Sage 2011. 2nd ed. p.277ff.
Drucker's Challenge: Communication and the Emotional Glass Ceiling
ホンモノのリーダーシップ
ドラッカーとフランクルの相乗効果、ウィーアンドによる。
- 情緒的ガラスの天井を突破。適合的能力を発揮。指導能力。
- 自他に誠実・真正・寛容。自己弁護しない。同僚、部下への信頼。価値システムへの接近を許す。
- 価値において同僚・部下とコミュニケーション。共感は勇気の行為。信頼を養う。
- IQとEQの潜在能力を使う。競争的優位。高度のパフォーマンス文化の創造。
弊ロゴセラピー研究所の仕事
- コーチングは情緒マネジメントの指導を含む。(情緒マッピング)
(1)来談者は情緒的反応が差し示す問題の諸要因を知る。
(2)矛盾した情緒の存在を認知し、その分析と洞察を深める。
(3)それぞれの情緒を個別的に調べる。
(4) ストレス、モッビング、燃え尽き、エニアグラム等の学習。 - 情緒障害を持つ → 医師による専門的治療を受ける。
ドラッカーの「自己マネジメント」 その1
「自己マネジメント」(1999)の概要
- 状況の要求、自らの強み、仕事の仕方、価値観と成果の意義
→ 貢献の仕方。 - 共に働く者を理解し、考えを正確に伝える責任
- 第二の人生を持つ。
(1)組織・職業を変える。
(2)パラレル・キャリア
(3)篤志家となる。 - 日本人へのメッセージ → 終身雇用制の良さ+自己マネジメント
Drucker, Management Challenges for the 21st Century, 1999. 161〜195
ドラッカーの自己マネジメント その2
特に注目!
知識労働者の強みと価値観 → ミスマッチ
価値観 > 強み
ドラッカー、若い頃、ロンドンの投資銀行で働き、順風満帆。
しかし、そこを辞めた。
価値あるもの → 人、×金
「ただしい行動だった」。
ドラッカーとフランクルの相乗効果?
フランクルとドラッカーを並べて
見える「自己マネジメント」の課題
識労働者は情緒をどう消化するか
「自己マネジメント」と情緒 その1
ドラッカーは「成長型思考」(C.デュウェック)を代表(J.ハンター)。
「融通が利き、生産的」。「改善」。「好奇心」。「間違いは成長のチャンス」。「考えること、危険を冒すことへの勇気、チームメンバー連帯の強化」。「社会への開け、可能性や機会へ対応」。「共感的で希望に満ちた見解を持つ」。「冷静さ」。「継続学習」は良くこの思考型を例証。
ドラッカーは「偉大なる解放者」。怒り、恐れ、不安、不快、いらだち等「条件反射的情緒」から解放。これらは「固定型思考」と結びつく情緒。
J.Hunter, Knowledge Worker Productivity and the Practice of Self- Management, in The Drucker Difference, 2010 New York, p.175-p.194
「自己マネジメント」と情緒 その2
- アダム・スミス(1723〜1790)、近代経済学の祖。哲学者
- 「われわれは自分自身の性格と行為の公平な観察者とならなければならない」。(アダム・スミス著『道徳感情論』)
- 自分の中の観察するもう一人の自分。それが、観察すべき対象となる自分を、「あたかも他人を見るが如く」に眺める。そうする自分は自身には無関心。対象としての自分は「観察者から分離され」、観察する自分は「公平な観察者」となる。
- ドラッカーは「公平な観察者」。(ハンター)
「自己マネジメント」と情緒 その3
- フランクルの「自己距離化」。
自己を自己自身から引き離す。距離を取る。対象となる自己を「あたかも他人であるかのように」眺める。これを徹底する。
眺めるのみの自己は、眺められる限りでの自己を超越。超越する主体としての自己はスミスの意味の「公平な観察者」となる。
「傍観と受け身の気分」(フランクル)。ドラッカーに共通。 - 「自己距離化」 → 「自己超越」すなわちレジリエンス。
レジリエンスと、それを支える情緒的能力
- レジリエンス自身、一つの情緒的能力
- それを支える他の三つの情緒的能力、改めておさらい
ユーモア:下手でも、状況を笑い飛ばす。
好奇心:目の前で起こっていることは本当かを問う。
驚き:人間には何でも可能であることを確認する。
フランクルを強制収容所から救った指導原理。
レジリエンスの根源:精神的能力
ドラッカーとフランクル、心理的のみならず精神的次元の諸能力も使う。
- 価値と意味と目標への信頼
- 真正(ホンモノ)
- 誠実
- 責任を負う
- 孤独力(セーレン・キルケゴール譲り、「社会は社会にとってさえ十分ではない」(1813〜1855))
結論:レジリエンスの生産性 その1
- レジリエンス = 逆境を・耐え・成長し・乗り越え・生き延びる能力、同じことだが、価値観と適合情緒能力
知識労働者 → 「継続学習」、「公平な観察者」、「自己超越」の鍛錬。イノベーション能力の発現。 - レジリエンスの増大 → 注意散漫・否定的情緒・いらだち・皮肉っぽさ・気の荒さ・とげとげしさの減少
結論:レジリエンスの生産性 その2
- 結果 → 高度のパフォーマンス文化の創造、生産性の向上、競争的優位
これこそフランクルとドラッカーの相乗効果。
このことは十分熟すなら、どう労働世界と経済体制を変えうるか、
この問については、いつかまたの機会に。
ご清聴、ありがとうございました。